NPO法人と収益事業課税

 NPO法人は全体の所得のうち、収益事業に係る部分だけに法人税と法人県民税、法人市町村民税が課税されます。
法人税法ではこの収益事業に係る所得について、企業会計と同じ、貸借対照表と損益計算書の提出を求めています。

一般企業用会計ソフトの利用

 「NPO法人会計基準」では、事業費別に表示することは義務とされていませんが、少なくとも内部的には各事業別に損益のすべてなり、事業別に事業費のみを表示するなりの方法で理事会等に報告する必要が出てくると考えられます。
また、事業のうちに法人税法上の収益事業がある場合は、少なくとも収益事業部分については別に管理する必要があります。(収益事業に該当するか否かの判定が先に必要です。)
収益事業について税務署に確定申告書を提出する際には、損益計算書、貸借対照表を添付することとされています。
この場合、一般の企業用会計ソフトでは、「部門会計」という機能がありますので、これにより各部門名を各事業の名称に変更して運用することにより、各事業別の損益計算書を作成することが可能と思われます。
ただし、この場合の貸借対照表は全事業が合計された表示になりますので、収益事業分の貸借対照表は表示されません。(収益事業部分の損益計算書のみの提出で、貸借対照表を提出していない法人も多くあるようですが・・・)(また、貸借対照表も部門ごとに作成できるソフトもあるようですが、少し高価なソフトのようです)
事業ごとに貸借対照表を作成したい場合に、会計事務所で使用している専門ソフトではいろいろなやり方が可能ですが、「弥生会計」や「会計王」などの市販ソフトを利用する場合は、各事業ごとに別法人として経理し、全体部分はエクセルで合算し、報告書を「NPO会計基準」に合わせた財務諸表の様式に加工する方法(「弥生会計」や「会計王」などでは複数の法人の管理が可能)が良いと考えられます。
小規模なNPO法人では高価なソフトの取得や維持は難しいでしょうし、会計ソフトメーカーもこの基準に対応したソフトの販売には、しばらく時間が掛るでしょうから、適当なソフトが発売されるまでは、エクセルを併用したこの方法が良いのではないでしょうか。

貸借対照表を区分する場合の法人税確定申告書別表四表の処理

 「NPO法人会計基準」では本体事業(以下「一般会計」と言います)とその他の事業(以下「特別会計」と言います)がある場合、損益計算書は区分しますが、貸借対照表の区分は任意とされています。
法人税法上の収益事業がない場合はこれで良いのですが、法人税法上の収益事業を行っている場合には、先に記載したとおり法人税確定申告書に貸借対照表を添付することになっています。
法人税は所得に課税されますので、損益計算書があれば十分ではないかとも考えられますが、別表五の作成のためや、各種引当金、準備金等の管理に必要ということなのでしょう。
事実、収支計算しか作成していないNPOも多いと思いますので、作成した収支計算書から収益事業に関する数字を抽出して損益計算書を作成するのが精一杯なのが実態であろうと思います。

しかし、我々、税理士としては税法に規定されている以上作成しなければなりません。

 以下は、収益事業部分の貸借対照表を作成する場合の注意点です。
損益計算書には他の事業とのやり取りについて、収益や支出で経理されるケースが多いと思います。(後日返済予定のものは、貸付金、借入金で処理しますが、ここでは省略します。)
貸借対照表を区分した場合と区分しない場合の例は「実務担当者のためのガイドライン」のQ23-2を参照してください。

 仕訳の例で示します。(科目名はいろいろ考えられます)

「※」・・・当事務所では「経理区分振替額」という費用科目を使用し、一般会計と特別会計で共通して使用することとしました。これは各月での仕訳入力後には、一般会計と特別会計の「経理区分振替額」は同じ額が貸借反対に表示されることにより、仕訳ミス、入力ミスが一目で分かることと、一般会計と特別会計との合計額ではゼロと表示されることにより、内部取引として認識しやすく、便利であると考えました。

収益事業(特別会計)の電話代10,000円を本体事業(一般会計)の普通預金から口座引落された。・・・収益事業と後日精算しない場合(貸付金でなく回収しない場合)

(一般会計での処理)

特別会計繰入金支出

(経理区分振替額)

10,000円   /   普通預金

10,000円

(特別会計での処理)

通信費 10,000円   /

  一般会計繰入金収入

(経理区分振替額)

10,000円

 逆に、本体事業(一般会計)の水道代60,000円を収益事業(特別会計)の普通預金から口座引落された。・・・本体事業と後日精算しない場合(貸付金でなく回収しない場合)

(特別会計での処理)

一般会計繰入金支出

(経理区分振替額)

60,000円   /   普通預金 60,000円

(一般会計での処理)

水道光熱費 60,000円   /

  特別会計繰入金収入

(経理区分振替額)

60,000円

 この場合、税務署に確定申告書を提出するのは特別会計のみですので次の部分の処理が必要です。

一般会計繰入金収入 10,000円(収益科目)
一般会計繰入金支出 60,000円(費用科目)

「経理区分振替額」で処理した場合には、特別会計にプラスで表示された場合は収益、マイナスで表示された場合は費用として認識します。

 

は特別会計の収益、費用ではありませんので申告書別表四で次の処理が必要です。

別表四

加算)

一般会計繰入金支出否認 60,000円 (その他流出)

(「経理区分振替額」がマイナスの場合)

減算)

一般会計繰入金収入否認 10,000円 (その他流出)

 (「経理区分振替額」がプラスの場合)

※当事務所では、一般会計、特別会計それぞれ貸借対照表を作成しています。第四表の最上欄「当期利益又は当期欠損金の額」と別表五(一)の「繰越損益金」には活動計算書の当期正味財産増減額を記入していますので、「経理区分振替額」を差引した後の額が記入されています。したがいまして、その額を「加算」又は「減算」に記入して、「経理区分振替額」(内部取引額)の差引前の金額を課税対象にします。

上記例では(その他流出)としていますが、当事務所では(留保)とし、別表五(一)に「一般会計との経理区分振替額」として同額を記入しています。そのことにより、この額と「繰越損益金」との差額が課税対象の累計額として、翌期以降の申告に繰越されてゆきます。

NPO法人の場合には課税済み金額の累計額は課税上意味がなく、解説書でも、流出、留保を明確に解説したものはありません。当事務所のように収益事業部分の貸借対照表を作成しているのであれば(留保)とした方が課税額の累計額を見る上で、このようにした方がよいのではないかと思いますが、そうでない場合(収益部分の貸借対照表を作成していない場合や収支計算書から損益を抽出する方法)には上記例のように(その他流出)としないと、別表四と別表五(一)の検算が合わないことになります。

詳しくは左の「Q&A」を参照してください。

 なお、課税される所得には公益法人で認められている「みなし寄付金制度」の取り扱いは認められていませんので注意が必要です。(「認定NPO法人」には「みなし寄付金制度」が認められています。)

 多くのNPO法人では収益事業で得た利益(資金)を他の事業で利用しているのではないかと思いますので、収益事業の損益計算書では資金を移動(貸付金として回収しない場合)した際に、費用科目に計上することになりますが、税務上は費用ではありませんので上記の例のように加算(60,000円)が必要になります。

 なお、貸付金、借入金とする場合は、貸借対照表に計上されますので、別表四の処理は必要ありません。

「NPO法人会計基準」についての感想

 数年前、私が最初にNPO法人の経理を任されたとき、損益計算書で利益を計算する企業会計基準で処理すべきか、収支計算書で収支を計算する公益法人会計基準で行うべきか分からなかったので複数の解説本を確認しました。簿記の試験でも企業会計に基づく経理しか習っておらず、公益法人用の簿記の本を取り寄せ勉強して、初めて「一取引二仕訳」を勉強した次第です。
勉強はしましたが、「このように仕訳するもんだ」程度の理解で、めったに使う仕訳でも無かったため、うまく説明する自信はありません。でも確かにその仕訳をしないと各計算書の数字が一致しないのです。
簿記を勉強した人でも難しいのに、手弁当で集まった少人数のNPO法人にも全て、このような難しい経理処理を強要するのはどうかとも思っていました。

 平成22年の夏頃、法人税法上の収益事業を営むことになったNPO法人から申告と経理を依頼されました。

 「NPO法人アカウンタント」の研修でも公益法人会計に準拠した方法での研修だったため、当然のごとく公益法人会計に準拠した経理を始めましたが、やはり通常の企業会計より手間が掛ると思っていました。
そこに「NPO法人会計基準」の話題を耳にし、HPで内容を確認したところ、どうも一般企業で使われている企業法人会計をベースにした会計基準であると思われ、NPO法人にとっても、会計事務所にとっても分かりやすい基準であると考えられ、適用時期もすぐに使用して良いということだったので、現在の経理をストップしてこの「NPO法人会計基準」で処理することにしたわけです。
私個人として、なにより嬉しいのは、難解な「一取引二仕訳」が不要となったことから、顧問先への説明がしやすくなったことと、一般企業の会計用の安価なソフトで対応が可能(だと思います)となり、NPO法人でも自計化の推進が可能であることです。

(2011/05/19)

 依頼されたNPO法人の決算書を「NPO法人会計基準」で作成し、無事確定申告書の提出が完了しました。

 貸借対照表、損益計算書をそれぞれ、エクセルで非収益事業、収益事業、合計の3列で表示する方法を採用しました。

 NPO法人の総会では、初めてのこともあり、私がオブザーバーとして説明させて頂きましたが、分かりやすいと好評でしたので、今後もこの会計基準を採用していきたいと思いました。

(記事追加 2011/07/26)

「経理区分振替額」を利用した場合の仕訳、別表四への加算、減算を追加しました。

(2012/05/23)